- 地震に被災した後の行動と対策
一般社団法人全日本防災計画協会
黒田尚寛
一般社団法人全日本防災計画協会
黒田尚寛
口腔環境が悪化すると虫歯や歯周病になるだけでなく、風邪やインフルエンザなどの気道感染や肺炎を起こしやすくなったり、脳梗塞などの全身の病気の悪化に繋がり、最悪の場合には死に至るケースもあります。実際に、阪神淡路大震災では、震災に関連した肺炎で200人以上の方が亡くなられました。口腔ケアが不十分なために肺炎になった方も多くいると考えられます。
歯ブラシがない、水が足りない、義歯がない、口腔ケアが後回しになりがちなど、口腔ケアが充分にできないことが想定されます。
口の中には健康な人でも500種類以上の細菌がすんでいると言われていて、その中には「黄色ブドウ球菌・肺炎桿菌(はいえんかんきん)」などの、表皮感染や食中毒を引き起こしたり、呼吸器感染症を引き起こす恐れのある菌も含まれていますので口腔ケアが不十分であれば、これらの細菌も増殖しやすくなり、結果食中毒などが起こりやすくなります。
避難所では、飴やチョコレートなどの砂糖の多いお菓子に偏った食べ物が続きがちになるほか、間食を取る回数が増えるなどの状況が考えられます。しかもその状況で歯磨きが十分にできない状態が長く続くと、虫歯になってしまう可能性が高まります。そうなれば、痛みから夜泣きしてしまうことも考えられますし、口腔ケアが不十分であるので風邪やインフルエンザにもかかりやすくなります。
特に高齢者の方は、免疫機能・口腔機能が低下することで、口腔清掃の不備から風邪やインフルエンザなどの気道感染や、嚥下性肺炎の発生が高くなります。
場合によっては命に関わるので「誤嚥性肺炎」や「不顕性嚥下」に注意する必要があります。
誤嚥性肺炎とは:嚥下機能(食べ物を飲み込む機能)や咳をする力が弱くなることで、食べ物や唾液が気管に入ってしまい、その際に口腔内の細菌や食べかす、逆流した胃液などが肺に入って起こる肺炎のこと
不顕性嚥下とは:嚥下してもむせない、息苦しさを感じないなどの誤嚥の徴候が捉えられないこと。体力の弱っている高齢者などは命に関わる場合も少なくない病気のこと
口腔ケアをしっかり行うことで、口腔内が菌の温床となるのを防ぎ、感染症や肺炎の予防するだけでなく、認知症の予防にもつながると言われています。(歯がなく、入れ歯も使っていない人は認知症になるリスクが1.9倍も高いという結果もあります。(歯を20本以上残っている人に比べて))
糖尿病や高血圧者方は、歯周病の合併が多い傾向にあるため、これらの人が口腔ケアを不足することにより、歯周病の悪化、動脈硬化やインスリン抵抗性の亢進、その結果脳梗塞や肺炎へと負の連鎖が危険とされています。
口腔ケアを行い、口を清潔にしておくことで唾液が綺麗になり、例え誤嚥したとしても、肺炎をおこしにくくなります。また、口腔ケアの刺激で嚥下障害の改善を期待することもできます。
過去の避難生活において行政から歯ブラシは配られたが、水が足りなくて歯磨きが出来なかったという状況もあったようです。万一に備えて、被害を最小限にとどめられるように有用な情報を得ておくのが大切です。
・「災害時のお口(くち)のケアについて」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/content/10600000/0000123373.pdf)を加工して作成
・ティッシュやガーゼ、タオルなどで、歯の汚れを取る
・食後に少量の水やお茶でうがいをする
・口を大きく動かす、舌を大きく動かす。
・唾液を出す工夫をする。
唾液には口の中を綺麗に保つ働きがあります。災害時など、慣れない環境などの強いストレスを受けている時は唾液が出にくくなる場合があるので、唾液を出す工夫が必要になります。
<唾液が出やすくなる方法>
耳の下や頰、顎の下を手で軽く揉んだり、押したり、温める。
・30ミリ程度の少量の水を用意しておき、歯ブラシを濡らし歯磨きをする。歯磨きの合間に、歯ブラシの汚れをティッシュなどで拭き取り、最後に、用意しておいた水を2~3回に分けて、少しずつ口に含みすすぐ。
・液体歯磨きや口腔用洗口液(マウスウォッシュ)がある場合には、水の代わりに利用する。水でのすすぎは不要なため。
・うがい薬を利用する。口を清潔に保つのに効果的。
・キシリトールガムやシュガーレスガムを噛む
ガムを噛むことで唾液をたくさん出す効果があり、ストレスや緊張感の緩和ができる。さらに、ガムを噛むことででてきた唾液で口をすすぐこともできる。
・口腔用洗口剤(マウスウォッシュ)を使用する
これらを使用することで、菌の増加を防ぐことができる。
口の中の状態を考えると、刺激の少ないノンアルコールタイプのものがおススメです。
・爪楊枝やミシン糸がある場合は、歯と歯の間の食べ残しを取り除く。
・フッ素入り歯磨き剤がある場合は、小豆くらいの量を少量の水に溶いて歯に塗る。(できればうがいし、拭き取るほうが望ましい)
・歯ブラシで口の粘膜や筋肉の刺激をする。
粘膜は傷つけないように気をつけましょう。
人前で義歯を外すのが恥ずかしいなどの状況が考えられますが、可能であれば毎食後外して洗うようにしてください。(少なくても1日1回は外して洗いましょう)
洗い方:手ぬぐいやハンカチ、タオルや食器洗い用のスポンジなどで拭く。部分的な義歯の場合、針金部分などの細かいところは歯ブラシや綿棒で拭く。
※義歯がないことで、食べづらさによる栄養低下、唾液や水分が飲みづらくなることによる水分不足、その結果全身の状態が悪化しやすくなる傾向があります。
例え入れ歯があったとしても、避難生活が長引いた場合には、体重減少で口腔内も痩せてしまい、義歯も合わなくなってしまう場合もあります。義歯がないままの状態や義歯が合わないままで噛み合わせを行うと、口腔内が傷ついたり、口内炎も起こりやすくなります。さらに義歯がない状態だと、口腔に食べかすや歯石を多く停滞させていることになり、嚥下性肺炎を招きやすくなりますし、義歯を外したままにしておくと、逆に入りにくくなることもあります。
※食べる順序を工夫する方法
粘着性のもの、例えばキャラメルなどの砂糖が多く、歯にくっつきやすいものの場合は、その後りんごを食べると、くっついたものを落とすことができます。
スポーツドリンクなども、飲んだ後にはお茶や水を一口含むと良いです。
歯にくっついていないように感じていても、糖が多く酸性のものが多いので要注意です。
※キシリトールやステビア、パラチノースなどの代用糖は虫歯にならないと言われています。