避難後も身体を動かそう!~エコノミークラス症候群の予防~(上)では、どのようなメカニズムでエコノミークラス症候群が起こるのか、またどのような方に発症しやすいのかについて説明してきました。ここからは、では被災時にどのような具体的な行動をとればいいのかについて、考えていきます。ークラス症候群の予防~(上)での振り返り
災害時、長期間の避難所生活や車中泊によって、エコノミークラス症候群の多発が問題視されています。最初に多発したのは、2004年の新潟県中越地震です。避難所が少なく、約5万人が車中泊することになりました。地震発生後、7日間以内に7人が亡くなっています。2016年の熊本地震では、数万人の避難者が車中泊を経験し、死亡者が出ています。エコノミークラス症候群は、狭い場所で長時間身体を動かさない状態でいると起こりやすくなります。パーソナルスペースの狭い避難所生活や車中泊の様に、長時間狭い場所でじっとしている環境下では、発症のリスクが高くなります。また、気温の低い所で長時間身体を動かさない場合にも血流が滞りやすくなり、エコノミークラス症候群を発症する可能性があります。その為、冬期に起こる災害で非難する際には、更に注意が必要です。災害におけるエコノミークラス症候群の発症を防ぎ、死亡者を減らすには、避難所の管理(避難所の増設や環境改善)はもちろんです。しかし、避難者自身もエコノミークラス症候群のリスクを認識し、主体的に発症を予防する必要があります。その発症の予防方法について、次章で考えていきます。
エコノミークラス症候群を予防するためのポイントは「血栓を作らないこと」です。そのためには「血流を滞らせないこと」が重要です。これらの予防法をいくつか紹介します。
(1)身体を動かす
主に足(特にヒラメ筋)を動かすことで、血流の流れを良くします。(歩く、立ったり座ったりを繰り返す、つま先立ち、つま先を上げる、足首を回す、足の指でグー・パーして閉じたり開いたりする)
(2)水分を摂る
適度に水分を摂ることで、血液がドロドロにならないようにします。
(3)マッサージをする
ふくらはぎを軽く圧迫して揉み、マッサージをします。
(4)弾性ストッキングを着用する
ふくらはぎを圧迫することによって血流が滞らないようにします。
(5)血栓を作らない環境を作る
過ごしやすい温度(低温は血流を悪くする)、足を伸ばせるようにする(段ボールベッドの導入)、妊婦さんは福祉避難所を利用するなど
身体を動かすことは、私たちの精神にも良い影響を与えます。具体的な効果は以下の通りです。
(1)気分の改善
運動することで不安や抑うつが軽減すると報告されています。また、不安を感じにくくなります。
(2)自信や自己評価の改善
運動した後に自己効力感が高まると言われています。
(3)認知機能の向上
注意力や集中力が向上すると言われています。高齢者には特に著しく効果がみられます。
災害時は、心理的に不安定になりやすいことから、身体を動かすことで気分の改善を図るのも心身の健康を考えると大切です。
災害が直接の原因ではなく、避難生活などにおいて生じた事象で被災者が亡くなることを関連死と呼ばれます。一説によると、災害などの直接死に比べて、関連死は4倍あると言われ、災害が発生して避難した後も、命を失う危険性は決して低くありません。その原因の一つがエコノミークラス症候群です。意識的に身体を動かして発症を防ぎ、同時に不安や抑うつの気分も改善する可能性もあるので、是非ご活用下さい。
・エコノミークラス症候群…同じ姿勢6時間で血栓リスク、水分取り足の運動を
URL:https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20180706-OYTET50013/
・エコノミークラス症候群(肺血栓塞栓症)に関するQ&A
URL:https://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=152
・妊娠中・出産後こそ血栓症に気をつけて!リスクと予防法を正しく知ろう(1)
URL:https://women.benesse.ne.jp/healthcare/pc/static/calendar/calendar46_01.html
・妊娠・出産のときに起こりやすい「血栓症」
URL:http://www.lc-mabuchi.or.jp/info/kessen.html
・エコノミー症候群にかかりやすい人の特徴は、ズバリこんな人!
URL:https://www.mrso.jp/colorda/lab/2348/
・肺塞栓症
URL:http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/blood/pamph78.html
・災害におけるエコノミークラス症候群の原因と対策 イタリアとの比較も含めて
榛沢 和彦
繊維製品消費科学 59(7) 510-513 2018.
・RCTによる寒冷暴露後の静脈還流回復時間遅延に有効な運動療法の検討
小柳 穂菜美, 久保田 早耶, 佐藤 俊城, 木村 朗
理学療法学Supplement 2012巻 D-O-05 2013.
・特集2 エコノミークラス症候群の予防 適度に身体を動かそう
気軽にできる運動・体操をご紹介
URL:https://www.min-iren.gr.jp/?p=6911
・運動はメンタルヘルスにも効果的 運動が不安やうつ状態を改善
URL:http://tokuteikenshin-hokensidou.jp/news/2014/003746.php
・運動とメンタルヘルス -先端脳科学から探る運動とこころの関係-
永松 俊哉、藤本 敏彦
体力科学 64 (1) 54 2015.
・運動がもたらす心理的効果とは何か : 脳波からの検証
佐久間 春夫
日本体育学会大会号 52 2001.